2007年4月15日日曜日

朝日のようにさわやかに

◆読んだ本◆

・書 名:朝日のようにさわやかに

・著 者:恩田陸

・出版社:新潮社

・定 価:1,400円

・発行日:2007/3/30

     

◆評価◆

・バラエティーに富んだ短編集度:★★

・ホラー?SF?ミステリー? それは恩田陸度:★★

・「冷凍みかん」がいい度:★★★★


◆ひとこと◆

ホラーありSFあり学園ものありの多彩な短編集。


構成や内容が変わっても、恩田陸テイストを感じさせる仕上がり。

がむしゃらに怖かったり、とんでもなくファンタジックだったりはしないが、不思議感覚を味わえるのが楽しい。


印象に残ったのは「冷凍みかん」。

星新一のショートショートを思い起こさせるような短編。

目新しくもないし、インパクトがあるわけでもないし、落ちがずば抜けてすごいわけでもないんだが(ひどい言い様だ)、日常と非日常が紙一重の感覚がいい。

冷凍みかんという感覚と、不条理不可思議さが、読んでいて楽しいなあ。



千年樹

◆読んだ本◆

・書 名:千年樹

・著 者:荻原浩

・出版社:集英社

・定 価:1,600円

・発行日:2007/3/30


◆評価◆

・ホラータッチの短編連作度:★★★

・くすの木はなんでも知っている度:★★★

・「郭公の巣」は最上の出来度:★★★★★


◆ひとこと◆

樹齢千年のくすの木のもとで、ある人は恋しい人を待ち、ある人は大切なものを捨てる。ひとの持つ暗い心や悲しい重いが、くすの木の周りで時を超え交錯する。


ちょっとホラータッチの短編集。中心となるくすの木は、恐ろしいばかりの大木で、イントロのこの木の生まれを読むと、ぞわぞわと怖くなる。


そういえば実家の近所にも、恐ろしい謂れの木があった。

その木は道の中央に生えていて、道路を整備するのにとても邪魔なんだが、これを伐採しようとすると誰かが怪我をするという。

何度か伐採の計画があがっては、中止するという経緯があり、結局道路を迂回させた。そのためこの木のあたりだけ、道路がコの字に曲っている。


そんな出来事を思い浮かべてしまうような、都市伝説の生まれる原形を見せられたような小説。



2007年4月8日日曜日

巨船ベラス・レトラス

◆読んだ本◆

・書 名:巨船ベラス・レトラス

・著 者:筒井康隆

・出版社:文芸春秋

・定 価:1,143円

・発行日:2007/3/15

     

◆評価◆

・メタメタフィクション度:★★★★

・文学への懸念と憂い度:★★★

・次世代作家&読者への警鐘と憧憬度:★★★★


◆ひとこと◆

革新的、前衛的な小説や詩を掲載し、文壇に一大旋風を巻き起こそうと創刊された雑誌「ベラス・レトラス」。これに寄稿している人気作家や詩人達の、日常と文学への思索を通して、著者および文学界の行方を模索した小説。


虚構と現実、どれが事実でどこが虚構なのか。さらに混じりあうメタフィクションや作中作品。そんなゆらぐ物語世界を巨大船のラウンジに創りあげた、いってみれば何でもアリの著者らしい小説。


現実の人気作家を思い浮かばす登場人物。どの登場人物がどの作家をモデルにしたのか考えるのも楽しいし、作中作の「山ひらき」はなにやらエロチックでもっと読んでみたくなるし、文学論や差別に関する言及に「うんうん」と頷いたり「???」となったり、同人作家や評論家に対する罵倒に笑い転げたりと、新鮮味はないものの最近の著者の考えのエッセンスを集めて分かりやすく小説にしたよう。


作中の登場人物に語らせているように、本は誰かに読まれないことにはどうしょうもないという、著者の諦観が伺えるような、平易な作風。


美しく前衛的であり続けようとする若い女性作家を、女神のようなシンボルに変えてしまうあたり、孫の元気で気概ある姿が眩しくみえるおじいさんのようで、好々爺してる。

かと思うと、著者本人が物語に登場し、自著の著作権侵害に関する経緯と憤りを滔々と語るあたり、掟やぶりもOKのスーパーぶりに拍手喝采だ。


しかし北宋社はとんでもない人を敵にまわしたものよ。



悲しき人形つかい

◆読んだ本◆

・書 名:悲しき人形つかい

・著 者:梶尾真治

・出版社:光文社

・定 価:1,600円

・発行日:2007/2/25


◆評価◆

・ファンタジック活劇小説度:★★★★

・黒澤明風展開度:★★★

・BFエンジェル”こゆみ”対ABUS度:★★★★


◆ひとこと◆

理系のことには天才的な頭脳を持ちながら、社会的常識が欠落している機敷埜風天。彼は尊敬するホーキング博士のために、ある装置を研究開発していた…


マッドサイエンティスト風に描写される「風天」と、彼と同級生で平々凡々とした中岡祐介の2人が主人公。

2人は、とある田舎町に引っ越すが、そこは北村組と藤野会が抗争をくり返す無法地帯という設定。

ひょんなことから両組の抗争に関わることになった風天と祐介だが、以降の展開は、物語の中でも書かれているように黒澤明「用心棒」へのオマージュといった感じ。


しかしこれが大笑い。

活劇シーンも、コメディータッチ。だいたい風天が開発した装置の使い方が大胆だ!

落語の「らくだ」みたいなブラックさとジョークが、ウヒヒと笑える。

他にも随所に笑いがちりばめられ、「悲しき人形つかい」という書名から受ける印象と大違いだ。


物語が進むにつれ、大胆さと笑いはエスカレート。

ラストの決闘シーンは、映画を思い浮かべて比べながら読んだけど。

緊張感とハラハラドキドキでは、やっぱし黒沢にはかなわないが、笑いでは本書が勝っているな。うん。



2007年4月1日日曜日

超能力番組を10倍楽しむ本

◆読んだ本◆

・書 名:超能力番組を10倍楽しむ本

・著 者:山本弘

・出版社:楽工社

・定 価:1,700円

・発行日:2007/3/28

     

◆評価◆

・暴かれる超能力の実体!度:★★★★

・良い子のための正しいテレビの見方度:★★★

・超能力に対する愛と鞭と鞭と鞭度:★★★★


◆ひとこと◆

「FBI超能力捜査官」「TVのチカラ」といった、いわゆる超能力を扱ったテレビ番組のウソを暴き出すという、著者の科学に対する愛と似非科学に対する批判の本。


体裁は少年少女向けで、超能力といっときながらトリックがあったりテレビでは当っている部分しか放送しなかったりという、業界では当たり前のように行われている「ウソ」を、分かりやすく説明。

それも、放送局や番組名、出演者名など実名で書いているし、番組の画像も掲載されていて、かなり力の入った内容。


著者は「分からないことを解きあかそうとするのが科学だ」としきりに書いている。それはそうだけど、実際に放映された現場に趣いて番組の内容を検証したり、録画したシーンを何度も見直して矛盾点やトリックを見つけだすというのは、「科学」というより「執念」。


普通の人は「インチキっぽいよなぁ」「こんなのデタラメに決まってるじゃん」で終わらせてしまうところを、しつこく追求する姿が、逆に狂信的にも見えてきてインパクト十分。



最愛

◆読んだ本◆

・書 名:最愛

・著 者:真保裕一

・出版社:新潮社

・定 価:1,500円

・発行日:2007/1/20


◆評価◆

・ショッキングな恋愛小説度:★★

・しだいに浮かび上がるヒロイン像度:★★★

・人は何を求め、何を得るのか度:★★★


◆ひとこと◆

幼い頃に両親を亡くし、姉弟2人となった千賀子と悟郎。離ればなれに親戚に引き取られて以降18年間音沙汰のなかった千賀子が、救急病院に搬送されたという連絡を悟郎は受ける…


ICUに入り言葉を交わすこともできない姉。いったい何が起きたのか、彼女の周囲を調査する悟郎は、しだいに彼女の太く芯の通った生き方を知ることになる。


物語の展開は、物言わぬヒロイン千賀子に関係のあった人たちを、悟郎が調べて聞き込むという、常套的手法。

それでも読ませるのは、各所にちりばめられた謎と、なかなか見えてこない主題のせいか。


冒頭で、それとなくしかし唐突な感じで伏線が張られているのだが、それににても本書のテーマとラストは、すんなり納得するのは困難。

ショッキングではあるけど、リアルではない。


それはおいといても、姉千賀子の姐御肌で意地っ張り、自分の考えを曲げない姿が印象的。

「自らを追い込むような恋愛しかできない」という弟悟郎の言葉通りの、破滅型の性格が、多くの人に愛された理由か。