2007年5月27日日曜日

沈黙のフライバイ

◆読んだ本◆

・書 名:沈黙のフライバイ

・著 者:野尻抱介

・出版社:早川文庫

・定 価:600円

・発行日:2007/2/28

     

◆評価◆

・ハードSF度:★★★

・駆けめくる宇宙への思い度:★★★

・スマートでエネルギッシュでアカデミック度:★★★★


◆ひとこと◆

宇宙への思いや興味を篤く抱く人たちが登場する、ハードSF短編集。


クラークばりの未知との遭遇や軌道エレベータ、火星への植民や大気圏外凧と、斬新さはないがアカデミックでリアルな物語の短編集だ。

もっとダイナミックでエンターテイメントな物語にしてもよさそうだが、そこが著者の持ち味?

そこそこユニークでそこそこ笑える前向きな登場人物達が、とっても日常的。

近未来のドキュメンタリーといった雰囲気さえある。


地味で堅実なSFが好みの方(?)には、ばっちりの小説。

アクションやスペースオペラ風のSFが好きな方には、全然物足りない小説。



前巷説百物語

◆読んだ本◆

・書 名:前巷説百物語

・著 者:京極夏彦

・出版社:角川書店

・定 価:2,000円

・発行日:2007/4/30


◆評価◆

・妖怪からくり事件度:★★★★

・又市、若いぜ!度:★★★★

・現代の社会事件とのリンク度:★★★★


◆ひとこと◆

小股潜りの又市を主人公とする百物語シリーズの一番はじめに位置する短編集。

「寝肥」「二口女」など妖怪を登場させたからくりにより、人の損を埋め合わせるという江戸不可思議物語だ。


本書に登場する又市は、それはもう若くて元気いっぱい。

事件解決に死人がでるのを嫌い、他に解決の方法はないかと悩む青い姿が印象的な設定。


なんか、青春しているみたいでいいなぁ。

憲法九条の論議あるいは、アメリカ対イラク戦争へのアンチテーゼみたいにも読めたり、児童虐待や官僚社会の歪、差別からデスノートまでアレンジして題材に取り込んでいるようにも思えたり。


それでいて時代背景や人物描写に違和感を抱かせない語り口。

おまけに蘊蓄ある(少々鼻に付いたり、それこそ青臭く感じないこともないが)お言葉の数々。うまいのう。


著者のファンはお見逃しなく!

著者の物語世界にとっぷりはまってください!!



2007年5月6日日曜日

オリュンポス

◆読んだ本◆

・書 名:オリュンポス

・著 者:ダン・シモンズ

・出版社:早川書房

・定 価:上2,200円 下2,200円

・発行日:2007/3/31

     

◆評価◆

・超弩級SF&ファンタジー度:★★★★★

・ギリシャ神話のSF的解釈度:★★★★

・活劇&冒険&恋愛度:★★★★★

・シモンズ版ウルトラマン勢ぞろいVS怪獣たち度:★★★★


◆ひとこと◆

大風呂敷を広げた「イリアム」の続編。ゴールデンウイークに合わせるようにして出版されたけど、この厚さを見ればそれも納得。大型連休じゃなきゃ読みきれない長さだ。


内容は「イリアム」を真っ当に引き継ぎ、ギリシャ神話の神々とトロイア+アカイア軍との戦いと、そこに割り込む生物機械モラヴェックたち、さらに古典的人類とキャリバンをはじめとする出来の良く分からない者たちとの戦い。

「イリアム」で広げた大風呂敷は、さらにどんどん広がってる。でも広がった分だけそちこちにほころびが。


普通のエンターテイメント小説が映画に比較されるとすれば、本書は東京ディズニーランドか富士急ハイランドクラス。(お値段も高いしね)

面白くドキドキするアトラクションもあれば、「なんじゃこれ」と感じる部分もあったりして。全部のパートが100点満点というのは、無理なのか。

(それにしても破綻しかかっている展開が眼に付く)


といった不平不満はあるものの、怒濤のように押し寄せる物語の迫力。すごい。

スプラッシュマウンテンとホーンデットマンションとフジヤマとドドンパを同時に体験している様だ。


訳者あとがきにはホメロス、シェイクスピア、プルースト等の関連も書かれているが、そこが主題とはいいがたい。

ただアイデアをもらったと考える方がいいんじゃないか。

(だってそうだったらB級すぎるし、まるで歴史の浅い国の歴史ある文学へのあこがれだけみたいで)


あくまでもハラハラドキドキのエンターテイメント小説だとして読めば、すごく楽しめるぞ!



 

家日和

◆読んだ本◆

・書 名:家日和

・著 者:奥田英朗

・出版社:集英社

・定 価:1,400円

・発行日:2007/4/10


◆評価◆

・ユーモア短編度:★★★★

・「人間いたるところ青山あり」の読み方がわかる度:★★★★

・幸せは身近なところに度:★★★★


◆ひとこと◆

家庭や家族の日常を題材にしたユーモア短編小説。


冴え渡る筆致を笑いのオブラートで包んだような、何気ない人物描写にも著者の観察眼の鋭さと人を思いやる気持ちが伺えるような、そんなあたたかい小説だ。

世の中では日本規模、世界規模の幸不幸が取りざたされているが、もっと切実で身近な幸せは、自分の家庭内にあるんだなあ。


「家においでよ」の主人公は、妻と別居したのを機会に、オーディオセットやプロジェクター、自分の好きな家具などを購入。以前のこじゃれた部屋を自分好みの部屋にすることで、家で過ごすのか楽しくてしょうがなくなり、いつしか同好の仲間達が集まる場所になってしまう。


これってやってみたいよねぇ。

サラリーマンのお父さんが家の中に書斎を求める夢を、家丸ごと叶えてしまおうというんだから、楽しいに決まってる。

ところがたいていの男は、訳の分からんものばがり蒐集してはほくそ笑み、この小説の主人公のようなハッピーエンドにはならないから不思議だ。